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コトラー博士が提唱する「ピース・マーケティング」の現在地 ASBF Japan主催ウェビナーレポート

「マーケティング」という言葉から、私たちは何を連想するでしょうか。効率的な販売手法、あるいは消費を促す仕組み。しかし、現代マーケティングの父、フィリップ・コトラー博士が心血を注いでいるのは、それらとは一線を画す「ピース・マーケティング」という概念です。

2026年2月、アジアスモールビジネス連盟(ASBF Japan)が開催したウェビナーに、コトラー博士の愛弟子であり、国際的なビジネスの最前線で研鑽を積んできた柴田光廣氏が登壇しました。混迷を深める現代において、企業がいかに「本業」を通じて平和に寄与できるのか。その実践的な理論を紐解きます。

欲望の充足から、精神の平穏へ:マーケティングの三段階

柴田氏はまず、マーケティングが辿ってきた進化の過程を、対象とする使命(ミッション)の観点から三つのステージに整理しました。

第一の使命は、人間の物理的な需要や欲求に応えること。これはモノが不足していた時代、物質的な繁栄をもたらすためのマーケティングでした。

第二の使命は、社会課題の解決を目的としたソーシャル・マーケティング。環境保護や公衆衛生といった、人々の「行動」を変えることで社会を良くしようとする試みです。

そして今、私たちが向き合うべき第三の使命が、ピース・マーケティングです。これは、人々の「精神や心」に働きかけ、世界平和の構築に寄与することを目指します。柴田氏は、これまでの平和運動が音楽や芸術、宗教の枠組みで行われてきたことを認めつつ、そこに「企業」という強力なプレイヤーが加わることの重要性を説きました。

企業こそが、平和の最大の受益者であるという視点

なぜ、一企業が平和という壮大なテーマに関わる必要があるのでしょうか。柴田氏の視点はきわめて現実的で、かつ論理的です。

平和とは、ビジネスにおける最も重要なインフラである。

戦争や紛争が起きれば、サプライチェーンは寸断され、市場は不安定になり、消費は冷え込みます。企業が安定して利益を上げ、成長し続けるためには、平和な社会が不可欠です。つまり企業は、平和という環境から最大の利益を得ている受益者なのです。

であれば、そのインフラを維持し、より強固なものにするために投資することは、企業にとってのリスク管理であり、最も合理的な投資判断であると言えます。利益を削って社会貢献をするのではなく、利益を出し続けるために平和に貢献する。このパラダイムシフトこそが、コーポレート・ピース・マーケティング(CPM)の核心です。

サステナブルな貢献プログラム「CWP」の設計

理念は尊いものですが、それが実務に落ちなければ継続できません。そこで柴田氏が提唱するのが、CWP(Contributing to World Peace / 世界平和貢献プログラム)です。

CWPにおいて最も重要なのは、そのプログラムが企業の本業にプラスになり、業績に貢献するものであること。寄付や一時的なボランティアは、景気が悪くなれば真っ先に切り捨てられてしまいます。しかし、事業そのものが平和に貢献し、それによって利益が上がる仕組みであれば、株主からも支持され、持続可能な活動となります。

講演では、具体的なアイデアがいくつか提示されました。

例えばエンターテインメント業界。暴力的な解決ではなく、知恵と対話で平和を勝ち取るプロセスをエキサイティングに描いたゲームやアニメーションを開発する。それがヒットすれば、収益を上げながら次世代の心に平和のマインドを植え付けることができます。

あるいはIT業界。アルゴリズムを調整し、平和的な発信や活動がより多くの人の目に触れ、評価される仕組みを作る。これも立派なマーケティングを通じた平和貢献です。これからのCMO(最高マーケティング責任者)には、こうした創造的なプランを経営戦略のど真ん中に据える役割が求められています。

既存事業の延長線上に「平和という価値」を

講演後の質疑応答では、より実践的な議論が展開されました。

Q:柴田さんのお話を聞いて、平和への貢献が「コスト」ではなく「未来への投資」であるという確信が持てました。一方で、中小企業やスモールビジネスの現場では、壮大なテーマすぎて、どこから手をつけていいか迷う声もあるかと思います。

A:大きなことをしようと構える必要はありません。例えば、自分の会社のサービスが、結果として人々の心の平穏にどう繋がっているかを定義し直すだけでもいい。先ほどのアニメやITの例のように、今の事業の延長線上に「平和という価値」をどう置けるか。社員みんなでアイデアを出し合うことから始めてほしいですね。


Q:投資家から「利益を優先しろ」と言われた場合、どうバランスをとるべきでしょうか。

A:確かに投資家は利益を重視します。だからこそ、イメージ向上だけで終わらせない「利益に繋がる平和プログラム」を提案する力が必要なのです。平和に貢献するからこそブランド価値が高まり、長期的な収益が安定する。その因果関係をロジカルに説明できるようになれば、投資家も必ず耳を傾けます。

マーケティングを通して平和をつくり出す

平和は、ただ願うだけのものではありません。それは、私たちの日常の購買行動や、企業の意思決定、そしてマーケティングの力によって「つくり出す」ものです。

今回の勉強会で柴田氏が示したのは、平和をビジネスの合理性の中に組み込むという挑戦でした。社会に良いことをしながら、同時に事業を成長させる。この両立こそが、これからのビジネス、そしてあらゆる組織が目指すべき方向性だと感じさせられました。

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