服作りは「種まき」から 玉木新雌さんが兵庫県西脇市で挑む、常識破りの完全循環モデル
私たちアジアスモールビジネス連盟(ASBF)が主催するBELLA AWARD 2026にて、アパレル業界の常識を根底から覆す異端の起業家がアグリ・ファッション&ライフスタイル賞を受賞しました。その起業家とは、兵庫県西脇市を拠点にする玉木新雌さん(有限会社玉木新雌代表)です。
彼女が手がけるブランド「tamaki niime」の拠点・兵庫県西脇市の「tamaki niime shop & Lab」には、織、編み、染め、縫製、洗い加工といったものづくり工程を全て自分たちで行っているだけでなく拠点周辺には綿花畑があり、羊やヤギ、さらにはダチョウまでが駆け回るという驚きの光景が広がります。服をデザインして売ることにとどまらず、なぜ彼女は自ら土を耕し、動物と暮らす道を選んだのか。大量生産の波に抗い、地方の伝統産業から世界へ発信する「究極のモノづくり」の軌跡をご紹介します。
「非効率」を最強の武器に変える、一点モノの量産
アパレル業界においては長年、同じデザインの服を大量に安く作り、売れ残れば廃棄するというシステムが問題視されてきました。しかし、玉木さんはその真逆を突き進みます。彼女が選んだのは、あえて1960年代の古い「力織機(りきしょっき)」を修理して使うこと。スピードは遅く、手間もかさむ機械。それでも、ゆっくりと空気を含みながら甘く織り上げることでしか出せない「極上の柔らかさ」がそこには宿るからです。
さらに驚くべきは、織機を動かしながらtamaki niime のスタッフたちが即興で糸の色を変え、すべて柄・配色の違う「一点モノ」を次々と生み出していくという逆転の発想です。これにより、世界に一つだけの価値を提供することで、同じ服が大量に売れ残るという在庫リスクを根本から消し去りました。現在までに約45万点もの「作品」を生み出しながら、それぞれが唯一無二の表情を持っています。
素材の背景を知るための「究極の自給自足」
玉木さんの探求心は、ついに糸の源流である「農業」へと行き着きます。理想の布を素材から作るという信念のもと、農薬や化学肥料に頼らないコットン栽培を自らの手でスタート。使われなくなった地域の耕作放棄地を引き受け、次々と豊かな畑へ蘇らせていきました。
さらに素材を深く理解するため、羊やアルパカ、さらには「原始的で家畜化されすぎていない」という理由からダチョウまで迎え入れ、約50頭の動物たちと共同生活を送る徹底ぶり。コットンの種は動物たちの命を繋ぐ食事となり、動物たちからは柔らかな毛を分けてもらう。種まきから染色、織り、縫製、そして販売まで。巨大なグローバル企業すら成し得ない「究極の垂直統合」を、地方の一企業が見事に体現しています。
伝統を救い、若者を呼び込む「村」という生態系
彼女の挑戦は、衰退の危機にあった地場産業「播州織」に全く新しい命を吹き込みました。安価な海外製品に押されていた伝統技術に、一点モノという強烈な付加価値を与え、世界200店舗以上で愛されるブランドへと押し上げた立役者といえます。
その情熱は周囲を巻き込み、巨大な工場跡地を改装した「tamaki niime村」という独自のコミュニティーを誕生させます。そこには工房やショップだけでなく、自社で育てた無農薬野菜を調理して提供する食堂までが併設。「まく(農業)」「つくる(製造)」「くう(飲食)」という、生きるために欠かせない営みが一つの組織内で美しく循環しています。
この圧倒的な熱量とライフスタイルに共感し、今では若きクリエイターたちが全国各地から西脇市へ移住。設立から20年、まったくのゼロからスタートした事業は、約100名の雇用を生み出す地方創生の星へと成長を遂げました。
捨てるものがない、自然のサイクルと共鳴するビジネス
最初から一点モノを作るため、大量生産特有の「規格外」という概念が存在しません。製造過程で出た端切れはパッチワークの小物に生まれ変わり、余った糸は機械でワタ状に戻して新たな生地へと息を吹き返す。環境への配慮が声高に叫ばれるずっと前から、息をするように「廃棄ゼロ」の循環型システムを構築してきました。
「人がみんな違うように、着るものも違っていい」
服を作れば作るほど、地域の農地が豊かに潤い、ゴミが出ず、伝統技術と地域経済が活気づいていく。玉木新雌さんが実践するビジネスは、自然のサイクルに経済活動を寄り添わせた未来の産業のまさに完成形です。地方の伝統産業と農業を掛け合わせるという、一見非効率な歩みともいえます。しかしそれが今、世界に通用する持続可能なモデルとして、私たちにビジネスの本当の豊かさとは何かを問いかけています。